囁いて交信

ミケにゃんも仔猫達もクロちゃんにも会えず、寂しい気持ちで家に帰った。クロちゃんとのふれ合いタイムがないので、仕事の疲れもそのままな感じ。

部屋に入り、上着を脱いだりした後でなんとなく気になって窓を開けてみる。
隣の家の庭を見たり、クロちゃんが行きたがるアパートの屋根を見たりと、あちこちに視線を向けながらクロちゃんを想った。
と、隣の家から2、3軒隣の家に置いてある温水器らしき大きな四角い箱状の物の上に、黒い塊を見つけた。
その、指先くらいの大きさの黒い塊をじっと見つめてみる。動く様子は無いのだが、黒い塊の上側に、耳かもしれない形状が確認できた。もしかしたら猫では...そう思わせる形だ。
近所にはクロちゃん以外にももう1匹、黒猫を見たことがあるので、もしかしてその仔だろうかとも思うのだが、どうにもクロちゃんに思えてしょうがない。
少し動いたとき「クロちゃん?」と小声で言うと、こちらを向いた。薄く銀色に光る2つの目と視線が合う。と、途端に「にゃあっ」「にゃっ、あっ、あっ」と泣き始めた。温水器の家の人は大丈夫だろうかと思いながら、「クロちゃん」「にゃん、にゃん」と囁いてクロちゃんと交信。
しばらく温水器の上で鳴いていたのだが、ぎゅ〜んと背中を丸めて伸びをした後に、窓の下に見える塀の上までやってきた。
そこでも「にゃあっ、あっ、あっ」「クロちゃん、にゃん、にゃん」と呼び合うことしばし。

さてこうなるともういてもたってもいられない気分となり、窓から頭を引っ込めて、キャットフードを入れている容器を持った。「今から降りるね」と伝えようと、再び窓からのぞくとクロちゃんの姿は消えている。いつもの場所へ向かったのかも。
ということでいつもの場所へ。が、姿が見えない。すぐにでもいつものように声をかけてくれると思っていたのだが....
どうしたんだろうかと思いながら、「クロちゃん」「にゃん、にゃん」と辺りに呼びかけてみる。
少しして「にゃあっ、あっ、あっ」と少し遠くから返事が返ってきた。2回目に返事をしたときは、こちらへ小走りにやってきていた。
お互いに喜びつつ、いつもの場所へ移動しキャットフードを食べ終わるのを待ってから、撫でなで開始。今日もヒザの上に乗ってくれて、しばらくおとなしく撫でられていた。
このまま家に連れて帰りたいと思うのはいつものこと。しかし別れなくてはいけない。寂しいけれど「また明日ね」「待っててね」と別れた。