お互い別れづらい

今日はいつものようにミケにゃんと仔猫達が、お目当てのキャットフードをおくれと駆けて来てお出迎えしてくれた。
急いで道端にキャットフードを置き、走るようにしてクロちゃんの待っている場所へ。...しかし、クロちゃんは待っていなかった。
寂しい気持ちになり、「クロちゃん」「にゃんにゃん」何度か小声で呼びかけてみるけど姿を現さない。
もしかしたらと、先日クロちゃんについて行ったアパートの横へと歩いてみた。

そこはクロちゃんがいつも連れて行きたがる場所で、いつもなんとなくついて来てと誘うような様子なので、先日ついて行ってみることにした。
何度も振り返りついてきているかと確認しながら前を行くクロちゃんの後を歩き、着いたのは3軒先のアパートだった。
アパートの入り口にある、排水溝のフタに開いている穴を何度も嗅いでいるクロちゃんを少し撫でていると、クロちゃんがアパートの奥へ行こうと誘うように入っていった。
しかしついて行くのはためらわれ、「一緒にはいけないから」「じゃあね」「ばいばい」そう声をかけて帰ろうと1歩足を出したとたん、クロちゃんは急いでひき帰してきて、いつも撫でている場所へと尻尾を立てて前を歩いていく。
クロちゃんも別れたくないんだと思うと、家につれて帰りたいという思いが膨れ上がってくるが、「またね」「またあしたね」と、明日会えることを信じてクロちゃんをそこへ置いて行かなければいけない毎日。

そんなことを考えながらアパートがあと数歩のところまでやってくると、「にゃぁっ、あっ」という猫の声がしてきた。
声は次第に大きくなり、クロちゃんがアパートから道路へと飛び出してくる。「にゃんにゃん、クロちゃん」「ここに居たんだ」
クロちゃんは大興奮で「にゃぁっ」「にゃぁっ」と鳴いて喜んでいる様子。キャットフードを差し出してもすぐには食べずに擦り寄ってくる。
私の方からそこへ来たことが、よぽど嬉しいのだと想像できるほど甘えてくる。どんどんよだれを出して喜ぶクロちゃんに、なんだか涙が出そうかもってほど切なくなってきた。

さて、今日は決心してちょっとアパートの建っている敷地内へと入ってみることにした。懐中電灯片手に踏み込んで行く。
前にクロちゃんが行こうとした、玄関がある通路はかなり狭くて人一人が通れるほど。そこを進み裏手へといってみると、少し広くなっていて物干しが置いてある。そこのフェンスの先は駐車場になっていて向こう側には道路があった。
クロちゃんはアパートの入り口でキャットフードを食べていたはずなのだが、アパートの奥から戻ってくる途中に隣の家の敷地へと塀をジャンプして消えた。
懐中電灯を持ってやってくる怪しい人間に、ちょっとビビッたらしいが、すぐに「にゃあ、にゃあ」と鳴いて戻ってきた。
残りのキャットフードを食べ終わったのでフタをしようとしたとき、容器にヨダレが付きまくっているので苦笑した。
少しそこで撫でていたのだが、なんとなく落ち着かないので、いつも撫でている場所へと移動して落ち着いて撫で撫で。少しすると駐車場の車が戻ってきたので、クロちゃん家の方へ移動した。
するとミケにゃんがテッテッテッテッと駆けてきて、クロちゃんに寄り添ってみたり、こちらに向いて小さな声で「にゃ」と鳴いてみたりしている。まだキャットフードが欲しいのだろうか。期待には添えないけどちょっとだけ撫でさせてもらう。

クロちゃんはあまりその場に居たくないらしく、すぐにいつも撫でている場所へ戻ろうと歩き始めたのだが、駐車場にはまだ人が居るので戻りづらい。行こうとするクロちゃんに、立ち止まって座り「もうちょっと待っててね」と話しかけてみる。と、足を止めて座り込んだ。
言葉を理解したわけではないのだろう。多分、すぐそこの駐車場に人の気配を感じて様子を伺っているといったことかも。
少しして駐車場から人が居なくなると、クロちゃんはタッタカといつもの場所へ行き、「にゃあっ、あっ」と鳴いた。しばし撫で撫で。

そろそろ帰らないといけない。そう思い立ち上がって歩き始めると、いつものようについてきて欲しそうにするクロちゃん。
別れづらいのでついて行くと嬉しそうに「にゃっ」「あっ」と鳴いて、さっきのアパートの前へ。そこで少し撫でていると、アパートの横手へとクロちゃんが走って行くので、「じゃあね」「ばいばい」と声をかけて1歩足を出したとたん、いそいで戻ってきた。
また「にゃっ、あっ、あっ」と鳴いて、いつも撫でている場所へ率先して歩いていくクロちゃん。そうね、お互い別れづらいよね。クロちゃんはあのアパートの横に来て欲しいんだろうけど、人に見つかると怪しまれちゃうんだよ。心の中でそう言い訳して、少し撫でた後に、後ろ髪引かれる思いで別れた。