心配事となった

クロちゃん家の前を通ったが、ミケにゃんも仔猫達も姿を現さなかった。
寝てるのか、今日は会えなかったなあと思いながら、いつもクロちゃんが待っていてくれる場所へ向かう。
急ぎ足でそこへ近づいていくと、「にゃっ、あっ、あっ、あっ」と鳴きながらクロちゃんが姿を見せた。
「はーい、待っててくれたのね」と返事をすると、くるりと背を向けていつもの撫でなでスペースへと小走りになるクロちゃんについて行く。
手に持って準備していた、キャットフードを入れた容器をクロちゃんの前に「どうぞ」と言いつつ置いて、座って食べる様子を見ていた。

すると、どこからか猫の声が...そして仔猫達が姿を見せた。
茶トラとキジトラの2匹がやってきて、クロちゃんが食べている横から容器に顔を突っ込み、クロちゃんを押しのけて食べようとする。それを怒りもせずに譲るクロちゃん。優しいのか、それともやっぱり気が弱いのか。
「こらこら、これはクロちゃんのだからだめ」そう言ってキャットフードを入れている容器から仔猫達を引き離し、ミケにゃんや仔猫達に食べさせようと思っていた分を容器のフタに乗せて2匹に差し出した。
が、仔猫とはいえ小さなフタに2匹が額を寄せて食べるには少々無理があり、キジトラが茶トラを押しやって食べると、茶トラがクロちゃんの容器に顔を突っ込もうとするという構図となる。そこで「だめだめ、あなたはこっちで食べて」そう言ってフタの方へと戻すのを繰り返す。

以前、食べている仔猫を撫でても逃げたりしないほど慣れたと思ったけど、自分達からここへやってきて撫でられたりするほどに慣れたかと、うれしい気持ちになったのと同時に、クロちゃんの落ち着ける場所が無くなったかもしれないと心配事となった。

仔猫のとってもやわらかい毛は、ミケにゃんが丹念になめて手入れしているのか綺麗だ。撫でると少しべとついていて、手には黒い汚れがつくクロちゃんとは大違い。そのことがなんとなく切ない気分にさせる。なににせよ、仔猫達にここへ来てもらうわけにはいかないのだが....どうしたものか。

少しすると、仔猫達はお腹いっぱいになったらしく、フタに少しだけキャットフードを残して、駐車してある車の下に入ったりしてあちこちめぐり始めた。好奇心が旺盛な時期だ。
時々、キジトラがクロちゃんに擦り寄ってくるのだが、そのたびにクロちゃんは嫌がり逃げてしまう。まったく落ち着かない様子なので、今日は撫でるのは無理そうだからと帰ることにした。
立ち上がりクロちゃんに「ばいばい」と声をかけて歩きだしたとき、ついてきたクロちゃんにキジトラがまた擦り寄った。
すると、クロちゃんは走って行ってしまった。