不審人物となり

朝食も終わり、掃除も終わりほっと一息ついたとき、家々の前で子供達が囃し立てるように大声で言いながら道を歩いているのが聞こえてきた。歌ってるらしいるおじさんの声が拡声器から聞こえてくるし、ドンドンと太鼓などの音もしてきてなんとも騒がしい、よく晴れた日曜日。
あんまりうるさいので部屋の窓を閉めようと窓際に立ったとき、なんとなく窓の下を覗き込んで下を見た。すると、黒くて丸い塊が緑の草の中にちょこんとしている。
クロちゃんだろうかと「クロちゃん」「にゃんにゃん」と呼びかけてみた。
すると、こちらに気づいてじっと見たけれど、あまり反応がないので他の黒い猫だろうかとも思ったり。もしかして首輪をしてないだろうかと首のあたりに目を凝らした。

首輪をしているのを確認し、クロちゃんだと判明するとどうしてもそこへ行きたくなってきた。
急いで下に降りて、クロちゃんの居る場所へと向かおうとしたのだが...そこへ行くにはフェンスを登るか、下のわずかな隙間をを潜るかしなければならない。
しばし思案して、不審人物となりフェンスの下を潜ることにした。登っても不審人物か。

腹這いになり、わずかのすき間を抜けると壁が迫る狭い建物との隙間で、苦戦しながらなんとか体を起こし、ようやくクロちゃんの居るところへと辿り着いた...のに。
どうしたことだろう、どこにも黒猫の姿が無い。

「クロちゃん」「にゃんにゃん」と小声で呼んでみても返事が返ってこなかった。
がっくりとしながら戻ろうとしたとき、建物との堺に置いてあった家庭用の物置の下に潜り込む黒猫を発見。
もう一度「クロちゃん」「にゃんにゃん」と呼んでみたのだが、出て来てはくれない。

諦めて今来たフェンスの下を潜ろうか、それとも登ろうか、それとも狭いブロック塀を乗り越えて駐車場へ抜けようかとしばし考えたが、もう一度腹這いになりフェンスの下を潜った。
からだがぎりぎり通るほどのすき間を抜けるので、手や服がちょっと汚れてしまう。

家に戻り手を洗ってほこりを払ってから部屋の窓を覗き込むと...さっき見つけたところにクロちゃんが戻ってる。
そんなところに人が来るとは思ってなくて、ただただ怖くて私だと気づかなかったのだろうか。それにしても少し寂しい気持ち。

見ていると、クロちゃんは匂いを嗅いではキョロキョロしている。
どうしたのだろうかと思ったが、少しすると、まるで呼んでるみたいに「にゃおん、にゃおん」と鳴き始めた。
さっき嗅いでいた匂いで、夜に会う人間(私)だとわかったのだろうか。
窓から「クロちゃん」と呼ぶと、今度はこっちを向いて鳴き始めた。

大きな声で鳴きながら、通りへと続く塀の上に座ってこっちを見て鳴いているクロちゃん。
傍に行きたいと思い始めたとき、通りから「クロよ」と呼ぶ声がしてきた。見ると飼い主らしき人が通りから塀の上のクロちゃんを呼んでいた。

クロちゃんは相変わらず「にゃおん、にゃおん」と鳴きながら、飼い主の方を見ている。
飼い主はしばらく呼びかけていて、クロちゃんはじわじわとそちらへ近づいていたのだが、飼い主の手が届くところまで近づいたとき首の辺りをつかまれるようにして飼い主の腕の中へ。
しかし、長くは抱かれておらずピョンと飛び降りて、飼い主の足元に体を摺り寄せ始めた。が、飼い主はクロちゃんをあまり撫でてやらなかったからか、クロちゃんは傍を離れて行ってしまった。